Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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量子力学の精髄〜すべては二重スリット実験から始まった
 量子力学の基礎である 「波動と粒子の二重性」 を明らかにした 「二重スリット実験」 は量子論物理学をスタートさせた画期的実験であった。 この実験をリチャード・ファインマンは 「量子力学の精髄」 と呼び、2002年英国物理学会会員誌での読者投票では 「最も美しい実験」 に選ばれている。 その後になされた量子論的発見のほとんどは、この実験結果から導かれたものであると断じてもあながち過言ではないであろう。
 ヒュー・エヴェレットの 「平行宇宙」、リチャード・ファインマンの 「経路積分」、アレックス・ビレンケンやスティーヴン・ホーキングの 「多世界宇宙」 等々については、第1909回 「多世界宇宙解釈」 で論じたので、ここではその他の量子論的発見について論考する。
 エルヴィン・シュレジンガー(オーストリア、1887〜1961年)が構築した 「波動方程式」 はその後の物理学において最も基本的な方程式と言われている。 物質としての量子がもつ波動性と粒子性の二重性はかくなる方程式によって初めて数式化されたのである。 方程式には 「波動関数」 と呼ばれるまったく新しい量が登場する。 波動関数は物質の粒子性と波動性の両面の性質を考慮して、ふるまいのすべてが詳細に説明されている。 さらにボールのような巨視的物体の場合はニュートン力学の各方程式へと書き直されるように組み立てられ日常世界でも使えるようにした。 その後、マックス・ボルンによって波動関数の2乗がある瞬間にある場所でその量子を見つける確率を示していることがわかった。 すべての系は波動関数により説明され、「ある瞬間、ある位置で(言うなればある時空間で)、あるもの」 が見つかったとたんに、すべての可能性を示していた波動関数は収縮、その時空間は 「あるひとつのもの」 に現実化する。 この収縮は観測や測定という行為によってなされる。 この状況を換言すれば、観測されるまで量子は波動性をおびて 「どこにもいてどこにもいない」 状態であるが 「ある瞬間、ある位置」 で観測されるや、すべての可能性は消滅し、ある 「ひとつの時空間」 に現実化する。 波動性を失った量子は 「粒子性をおびて」 もはや 「そこにしか」 存在することができない ・・ となる。
 ヴェルナー・ハイゼンベルク(ドイツ、1901〜1976年)が構築した 「不確定性原理」 は量子力学の根幹をなす原理である。 電子などの素粒子では、「その位置と運動量の両方を同時に正確に計測することができない」 とするものである。 これは計測手法に依存するものではなく、粒子そのものが持つ物理的性質と理解されている。 だがその原理を私流に解釈すれば 「位置と運動量を同時に正確に計測することができない」 とは、電子などの素粒子では、「その波動性と粒子性を同時に観測できない」 とする 「二重スリット実験」 の帰結から演繹される必然的現象を 「別の視点」 から説明しているだけのようにみえるのであるが ・・ どうであろう?

2024.06.14


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