Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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何もしないこと〜のこされた策
 二律背反の社会を生んだ科学的な根拠は 「不確定性原理」 と 「カオス理論」 であろう。
 以下は 第759.回 「社会学的不確定性原理」 からの抜粋である。
 量子世界を描いたハイゼンベルクの 「不確定性原理」 とは、量子の 「位置」 と 「運動量」 の2つを同時に高い精度で確定することができず、片方の精度を上げようとすれば、もう片方の精度が下がってしまうという原理である。 第721回 「社会学的インフレーション理論」 では、コンピュータをもととした情報化技術の飛躍的進歩が意識社会を急激に膨張させることについて考えた。 この意識社会の急激な膨張変化はさまざまな社会的現象(事件)を頻発させるが、今では発生した現象の意味をその時点で正確に把握することが難しくなっている。 事態の変化が速すぎて、とらえた情報がその時点ですでに陳腐化してしまっているのである。 テレビのワイドショー番組(現在では情報番組と呼ぶのであろうか?)でさえ、めまぐるしく変化する情報について行くのがやっとの状況である。 社会はニュートンが描いた絶対的な世界観からアインシュタインの相対的な世界観を経て、今やハイゼンベルグが描いた 「不確定性原理が支配する量子論的な世界観」 に移行しているように見える。 (2013.09.03)
 以下は 第1465回 「カオス社会の構造理論」 からの抜粋である。
 コロナ禍に端を発する混乱は社会をカオスに導いてしまった。 物理学の 「カオス理論」 が論ずる 「複雑系」 が支配する宇宙である。 この論の根底には熱力学の 「エントロピー増大の法則」 が横たわっている。 エントロピーとはある種の 「曖昧量」 であって、エントロピー増大の法則とは、時間の矢に従ってエントロピーが増大していくことを述べている。 つまり、昨日より今日の方が事態はより複雑で曖昧になっているのである。 情報化時代となって、次々に情報が更新されることで時間の速度が上昇していくのに比例してエントロピー増大の速度も急激に上昇する。 伴って、日々の曖昧量の度合いもまた急激に増大する。 情報化時代における時間速度の上昇には、宇宙を記述する根本的な理論である 「シュレジンガーの波動理論」 で使用される波動方程式に組み込まれた 「波動関数」 が深く関わっている。 詳細は割愛するが、波動関数は観測によって収縮する。 収縮とはものごとを観測する度に 「新たな宇宙が発生する」 ことを意味している。 つまり、情報化社会において次々に新たな情報が更新(観測)される度に、次々に新たな宇宙が発生する。 言うなれば、時間の速度とは、この 「新たな宇宙の発生速度」 のことを意味しているのである。 (2020.12.03)
 現代社会の二律背反の様相とカオスの様相は、人間が立案する 「計画の有効性」 を否定するとともに、その実体を把握する 「方法の有効性」 さえも否定する。 つまり、現代社会では、何をやっても 「効果が相殺」 されてしまって解が導き出せない。 それどころか、今の今である現在の社会の実体さえ 「複雑過ぎて」 把握できないのである。 であれば、のこされた策は 「全てを自然に任せて何もしない」 ことに尽きる。 人間以外の 「生きとし生けるもの」 がそうしているようにである。

2024.04.10


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