Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
Turn

二律背反の社会〜可もなく不可もなく
 最近は医者に 「体調はどうですか?」 と聞かれても返答に窮する。 良いような悪いような体調をどう表現したらいいのだろうか? 同様に、最近の経済情勢も景気が良いのか悪いのか判然としない。 よしんば、国全体の調子を聞かれたとしても 「どうなんでしょう?」 というような曖昧模糊とした回答になってしまうであろう。
 国の金融政策を司る日銀さえ金利を上げたら良いのか下げたら良いのか分からない。 金利を上げたら景気は悪化してしまうかもしれないし、下げたら物価が高騰して消費が低減してしまうかもしれない。 この 「二律背反」 に対する国策の要項は、給与を上げれば消費は拡大するはずだから金利をあげても景気は悪化しないとする予断に基づいて立案されている。
 だが給与が上がれば、ともなって物価も上がり 「効果は相殺」 されて思ったほどの効果は期待できない。 また子育て支援策として実施された出産育児一時金の42万円から50万円への引き上げも、引き上げを見越した病院側の出産費用の値上げによって、出産の困窮は相変わらずに続いているという。 これでは国がいくら補助金を給付しても、事態は改善されず、国庫の赤字が増えるだけである。
 以下の2つの論考は、2004年6月に書かれたものである。 上記した現代社会の混迷を生んだメカニズムの発端が描かれている。
安心売買オペレーション
 現代グローバル経済の本質である 「安心売買」 の核心は 「リスクヘッジ」 である。 リスクヘッジとは、例えば為替取引で言えば、手持ちのドルの価値が低下するリスクを、事前にドルを空売りしておくことで回避するような操作(オペレーション)である。 このようなオペレーションは、現在ではあらゆる経済取引に運用されている。 しかし、あらゆるリスクにヘッジをかけたらいかなることになるのか? 株は上がりも下がりもしなくなり ・・ 景気は良くも悪くもならず ・・ 結局は何も動かなくなる。 プラスとマイナスを加算すれば 0 になることは当然である。 好況のような不況のような経済、安定のような不安定のような社会、安心のような不安のような心理、可もなく不可もない人生等々の現代社会が呈する諸事相は、かくなる 「安心売買オペレーション」 の産物などではあるまいか。 (2004.6.09)
コマーシャル経済学
 価値ある情報も伝達方法が悪ければ価値は半減する。
 例えば、情報価値 100 が、伝達率 10% の伝達方法で伝達された場合の伝達情報価値は、情報価値(100)×伝達率(10%)=伝達情報価値(10)
 例えば、情報価値 50 が、伝達率 100% の伝達方法で伝達された場合の伝達情報価値は、情報価値(50)×伝達率(100%)=伝達情報価値(50)
 従って、伝達情報価値をあげるには、情報価値をあげることより、伝達率をあげることを考えた方が効果的である。つまり、素晴らしい商品(情報価値 100)を開発することに精力を注ぐより、そこそこの商品(情報価値 50)を開発し、広告宣伝に精力を注ぐ(伝達率 100)ことの方が効果的である。 現代コマーシャル経済学が依って立つ基盤である。 (2004.6.10)
 つまるところ、現代社会の諸相の根源は、理と理の二律背反であり、利と利の二律背反であり、権と権の二律背反 ・・ 等々である。 それらはコロナウィルスのように地球全域に広がって拡散されていく。 退治することは並大抵のことではない。

2024.04.08


copyright © Squarenet