Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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宇宙と人倫
 従来の価値観では、嘘は悪で誠は善である。 ここから導かれた義は、正義を土台にする。 よって、古今に渡って 「義のない戦は負け戦」 といわれてきたのである。
 だが現在の世界情勢を鑑みると、この価値観の正誤、言うなればその 「評価基準」 が反転しているかのように感じられる。 曰く、嘘が善で誠が悪かのような、しかして正義では戦に勝てないかのような反転感覚である。
 この世を測るにおいては 「宇宙の天秤と人倫の天秤」 の2つの天秤がある。 人倫の天秤では、人間社会での善悪や正邪が測られ、 宇宙の天秤では、人間社会を包含する宇宙の真実や真理が測られる。 人倫の天秤は 「相対的な天秤」 でその中核は人間意志に基づく多数決であり、宇宙の天秤は 「絶対的な天秤」 でその中核は人間意志が関わらない科学に基づく真理である。 世の評価基準が反転するとは、人間意志に基づく多数決で決まる人倫の天秤の測定結果が、人間意志が関わらない科学的真理で決まる宇宙の天秤の測定結果よりも正しいことを意味する。
 言うなれば 「人間は何をしようがお天道様が見ていなければいいのだ」 という考えである。 これらの様相は 第1282回 「天秤を失った社会」、第1320回 「天網恢々疎にして漏らさず」、第1322回 「たかをくくったお調子者の時代」 で描いている。
 科学的合理主義のあまりの成功に酔いしれ増上慢に陥った人間たちは、この世のすべてが人智をもってどうにでもなるかのごとく考えているのかもしれないが、人智をもってどうにかなるのは 「ほんのわずか」 などうでもいいような部分においてのみである。 「赤信号みんなで渡れば怖くない」 から始まった集団的な思考停止の歩みは 「信義で飯が食えるか」 という経済至上主義の弊害に陥り、自分ファーストの 「強欲資本主義」 に至って倫理観を喪失した 「末人の登場」 をもたらしたのである。 現代人が宇宙内蔵秩序としての 「宇宙の天秤」 を自覚する限り、危機は乗り越えられるように思うが、本末を転倒させて、その内蔵秩序を人倫の天秤で書き換えるようなことになれば、人類の命運も 「もはやそれまで」 ということになってしまう。

2023.11.16


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