それはとある工作機の会社を訪れたときのこと、工場を視察したあと 「何か気がついたことはあるか?」
と社長から問われた私が 「工具台を駆動する摺動面を面接触ガイドから転動ガイド使った転がり接触にすれば精度も向上するし、寿命も延びますよ
・・」 と提案した。 しばらく考えたあと、社長は 「その提案は受け入れない」 と応えた。 社長の理由はこうである ・・ その提案では我社の工作機の売上が減少してしまう。
顧客は故障するからこそ次の工作機を買ってくれるのだから ・・ その回答に、私は最初は何を言っているのか理解ができなかったが、しばらくして得心がいった。
社長が目指しているのは、高精度の工作機でも、寿命の長い工作機でもなく、「売れる工作機」 なのである。 現状の工作機が売れないならばともかく、売れているのであるから、何も
「売れなくする必然性」 はどこにもない。 それは売れなくなったときに考えればいいことなのである。 一方、私といえば学生時代から、とにかく性能は向上させなければならない、精度は向上させなければならない、寿命は向上させなければならないと金科玉条のごとく教え込まれてきたわけであって、それに反する理由など、ついぞ考えたことなどなかったのである。
さらに加えて社長はこうも言った ・・ 日本のA社のセールスマンがとある製品を〇〇ドルで納入しますから買ってくださいといってくる。
するとしばらくして、日本のB社のセールスマンが同じ製品をA社より〇〇ドル安く納入しますから買ってくださいといってくる。 すると今度はA社のセールスマンがB社よりさらに〇〇ドル安く納入しますからといってくる。
私は安くしろなどとはひとことも言ったことはない。 放っておくと、どんどん安くなっていく ・・ いったいどうなっているのだ、というのである。
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