この曲を耳にする度にとある青年の記憶が甦る。 彼とは同じ職場で知り合った5歳ほど下の後輩であった。
瞬きの少ない澄んだ目から放たれた彼の視線は媚びることなく強い意志を秘めて世界を見つめていた。 それは周りに迎合するわけでもなく、かといって反抗するわけでもなく、自らの生き方に淡々と徹しているようであった。
友だちの頼みは断ることなく引き受けそのための残業を苦にしなかった。 言うなれば、彼は希にみる 「ナイスガイ」 であったのだ。
曲を聴いてその青年の記憶が甦るのは彼の風貌が当時の新沼謙治に似ていたせいかもしれない。 そんな彼であったから女性にはもてた。
だからといってそれに執心するようなことはなかった。 そんな彼がとある女性を好きになった。 彼が選んだ彼女は明るい笑顔のしっかりものであった。
そんな折に会社の社員旅行が催された。 当時の社員旅行は今と違って全社員が数十台ものバスに分乗して観光地に向かうというような団体旅行であった。
二泊三日の期間中、二人は視線を合わせることなく普段通りを貫いたから誰ひとりとして彼らの関係に気づいた者はいなかった。 そんな彼らであったから、彼は男友達から好かれ、彼女は女友達から好かれた。
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