Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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混乱の臨界点(4)〜宇宙の終焉
 混乱が臨界点を超えたあとに到来する社会の様相については 第721回 「社会学的インフレーション理論」 の中で描いている。 要旨を抜粋すると以下のようである。
 物理学がいうところの 「インフレーション理論」 は宇宙が誕生直後、光速を超えるスピードで急激な膨張を起こしたとする理論である。 我々が住む宇宙が 「平坦」 で、どこでも 「一様」 であることの理由は、この理論を使って説明される。
 現代社会を観察すると、さまざまな社会現象が急激に膨張しているように見える。 これらの状況は 「社会学的インフレーション理論」 成立の可能性を暗示する。 両者のインフレーションの違いは、物理学的インフレーションが 「物質世界を基盤」 にしているのに対し、社会学的インフレーションは 「意識世界を基盤」 にしていることである。 近年における意識世界の急激な膨張が、情報化技術の急速な発展に起因していることは異論なきところであろう。 したがって、社会学的インフレーション理論での膨張係数(膨張率)は、おそらく情報化技術の根源となっているコンピュータの演算速度やネット回線のデータ転送速度の上昇係数(上昇率)によって計算されることになるにちがいない。 ではこの意識的インフレーションが社会に何をもたらすのであろうか?
 物質的インフレーションとの相関で考えれば、それは 「平坦で、どこでも一様な社会の出現」 ということになるであろう。 わかりやすく言えば 「均等で、中立で、無色で、無個性で、無気質で ・・」、よりわかりやすく言えば 「どこを切っても同じ顔があらわれる金太郎飴のような ・・」、ひと言で言えば 「何の変哲もない変わりばえのしない ・・」 社会である。 このインフレーションが我々人間にとって、はたして幸せなのかどうかは熟慮を要する。
 ちなみに現代物理学が予測する 「宇宙の終焉」 とは、限りなく膨張する中で温度は低下していき、やがてエネルギ密度は均等となり、「熱的死」 と呼ばれる、動くものなく物音ひとつしない 「静かな暗闇の世界」 である。 同様に社会学的インフレーション理論が予測する 「社会の終焉」 が、戯言(たわごと)に戯言を限りなく重ねていくうちに大戯言となって飽和し、やがては何を言っても意味をもたない、「心的死」 と呼ばれる、虚無的で無感動な 「静かな暗闇の世界」 であるなどとは想像したくない。
 上記した現代物理学が予測する 「宇宙の終焉」 は、エントロピが増大して人類が対応不能となる混乱の臨界点を超えたあとに展開される風景である。 そのときにはすでにして人類は滅亡しているわけであるから、その風景を描いたとて意義があるとはおもえないが、かくなる終焉を知ることで、今を生きる人類の意義が見つかるのであれば、あながち無駄にはなるまい。

2022.06.18


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