Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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混乱の臨界点(3)〜宇宙のこころ
 混乱の臨界点を突破した社会では人類の力をもってしてその混乱を解決することはできない。 しからばその社会は何をもって救われるのか? 超法規的と言うが如く、それは 「超人的」 なものであろう。 西欧では 「神の拳」 と呼ばれる神の力、東洋では 「天の配剤」 と呼ばれる天の力がそれにあたる。 私はそれらを総称して 「宇宙のこころ」 と呼んでいる。 それが如何なるものなのかは人知をもってしては推し量ることはできない。 それは神や天の差配を人知をもって推し量れないことと同じである。 人類にとってできるとすれば、その 「宇宙のこころ」 に添う(帰依する)ことだけである。 救済は人知を超えた 「他力本願」 にあるのであって、人知に基づいた自力本願にはない。 エントロピ増大の臨界点とはまた人類そのものの臨界点でもある。
 唯一、人類に期待するものがあるとすれば 「混沌からの秩序」 を描いた物理学者、イリヤ・プリゴジンが提唱した非平衡熱力学の散逸構造理論(自己組織化)である。 以下は 第822回 「自己組織化〜混沌からの秩序」 からの抜粋である。
 プリゴジンはエントロピが増大し、混沌とカオスが極限まで進行して臨界点に達すると 「自己組織化」 と呼ばれる再結晶化が起きることを発見した。 この理論により、1977年、ノーベル化学賞を受賞している。 それは生物学における 「突然変異」 のような現象である。 例えていえば、溶液にさまざまな薬品を混ぜていくうちに溶液の濁りが突然に消えて無色透明になるような現象(混沌からの秩序)である。 混乱も極まれば秩序が発生するのである。 それは 「雨降って地固まる」 がごとき現象である。
 だが悲しいかな、この自己組織化(エントロピの減少)は宇宙の片隅(部分)においてのみ発生するものであって、他の部分ではエントロピはいぜんとして増加する。 よって宇宙全体でのエントロピの総和は増大してしまい 「混乱の臨界点」 は回避されないのである。 たとえて言えば、日本での混乱が解消されたとしても、世界全体での混乱はいぜんとして解消されないということである。

2022.06.17


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