Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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重なった時空と連なった時空
 構築した 「ペアポール宇宙モデル」 で、私は宇宙が 「時空が重なった刹那宇宙」 と 「時空が連なった連続宇宙」 の2つの宇宙で構成されているとした。 刹那宇宙は 「時空間を時間で微分した宇宙」 であり、連続宇宙は 「時空間を時間で積分した宇宙」 である。 時空間の微分とは 「時空の変化率」 であり、それは新たに発生する 「宇宙の方向性」 を表している。 時空間の積分とは 「時空の広がり」 であり、それは新たに発生した 「宇宙の大きさ」 を表している。 宇宙論的に表現すれば、時空間の微分とは重なった時空間の中から個別の時空を 「選択する」 ことであり、時空間の積分とは選択された個別の時空がたどる各々の経路を 「積算する」 ことである。
 重なった時空間から個別の時空を選択する過程は、オーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガーが語る 「波動方程式での波動関数の収縮(観測問題)」 の過程であり、選択された個別の時空がたどる各々の経路を積算する過程は、アメリカの物理学者リチャード・ファインマンが語る 「経路積分」 の過程である。
 (※)波動関数の収縮については 第233回 「波動関数の収縮と意識」 を、経路積分については 第1182回 「出来事を時間の順序で並べるのは的はずれ」 を参照。
 またアメリカの理論物理学者デビット・ボームは 「暗在系と明在系で構成された宇宙構造」 の中で、物質宇宙とは、同時系列で重層している時空間が瞬間、瞬間に我々が認識できる形で現実世界に象出することで実在場が構築され、この瞬間が連続することで、我々に時間という概念を発生させ、時系列で連続している時空間を認識の中に構成させることで存在している世界かもしれないと語っている。
 前段の 「同時系列で重層している時空間が瞬間、瞬間に我々が認識できる形で現実世界に象出することで実在場が構築され」 とは ・・ 刹那宇宙における重なった時空の中から個別の時空を選択することで新たな宇宙が発生する過程、言うなればシュレーディンガーの波動方程式での波動関数の収縮に対応している。
 後段の 「この瞬間が連続することで、我々に時間という概念を発生させ、時系列で連続している時空間を認識の中に構成させることで存在している世界」 とは ・・ 連続宇宙における選択された個別の時空がたどる各々の経路を積算する過程、言うなればファインマンの経路積分に対応している。
 以上の思考展開は意識場での様相を描いたものであるとともに、実在場での様相を描いたものでもある。 その様相は 「精神と物質の狭間」 と同様に不確定で曖昧である。 第1620回 「思惟半跏像への憧憬」 では境界が曖昧な 「2つの場」 を自由に行き来する 「意識ワームホールとしての思惟」 の可能性について論考した。 はたしてその威力はいかほどであろうか?

2022.05.17


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