Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
Turn

宇宙の律動〜拍子とは
 宇宙の万物事象は静的に存在しているように見えるが、耳をすませばそこには動的な 「律動」 が内在している。 人間の体とて、それは同じで、体内には宇宙の律動に同調する律動、言うなれば 「リズム」 が内在している。 このリズムを逸脱すると俗に 「調子っぱずれ」 と呼ばれるような 「乱調」 に陥ってしまう。
 剣豪、宮本武蔵の 「五輪書」 にはかくなる 「宇宙の律動」 について、「兵法の拍子」 として以下のように書かれている。 (武蔵の心に近づくことを画してその原文を抽出)
 物ごとにつき、拍子はあるものなれども、とりわき兵法の拍子、鍛練なくしては、及難きところなり。 世の中の拍子顕てあること、乱舞の道、伶人、管弦の拍子など、これみなよく合ふところの、陸なる拍子なり。 武芸の道にわたつて、弓を射、鉄炮を放し、馬に乗ことまでも拍子・調子はあり。 諸芸・諸能にいたりても、拍子を背くことはあるべからず。 また、空なることにおいても、拍子はあり。 武士の身の上にして、奉公に身を仕上ぐる拍子、仕下ぐる拍子、筈の合ふ拍子、筈の違ふ拍子あり。 あるいは、商の道、分限になる拍子、分限にてもその絶ゆる拍子、道々につけて拍子の相違あることなり。 もの毎盛ゆる拍子、衰ふる拍子、よく々分別すべし。
 兵法の拍子において、さまざまあることなり。 先づ、合ふ拍子を知つて、違ふ拍子を弁へ、大小・遅速の拍子のうちにも、当たる拍子を知り、間の拍子を知り、背く拍子を知ること兵法の専なり。 この背く拍子弁へ得ずしては、兵法たしかならざることなり。 兵法の戦ひに、その敵々の拍子を知り、敵の思ひよらざる拍子を以て、空の拍子を知り、智恵の拍子より発して勝つところなり。 いづれの巻にも拍子のことを専ら書きしるすなり。 その書き付を吟味してよくよく鍛錬あるべきものなり。
 武蔵の強さとは、宇宙に内在する動的な律動である 「拍子」 を、その慧眼をもって見抜き、身のうちに具現化したことによる強さである。 より還元すれば、武芸者とは 「その拍子を瞬時に見抜き、すばやく打ち込める技を身に備えた者」 ということになる。
 現代の若者もまたこの宇宙の律動の有効性をどこかで察知しているかのようで、スポーツ選手などは常に耳にイヤホンを付け状況に応じた楽曲を使って 「体内リズムとの同調」 に余念がない。 また極度の緊張を強いられる外科的手術で、音楽を聴きながら執刀する外科医師もいるという。 これも宇宙の律動と体内リズムの同調を目的とした運用法のひとつであろう。
 ことが順調に進むとは、宇宙の律動と事態のリズムが同調していることを顕している。 観るべきは宇宙の律動であって、目指すべきはその律動への同調である。 俗に世に言う 「波長が合う」、「波に乗る」 等々の状況はその同調の是非を示したものであろう。

2022.02.14


copyright © Squarenet