Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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紅い花〜過去と未来の置き所
 歌手ちあきなおみについては 「ちあきなおみの風景〜冬隣(ふゆどなり)」 で書いている。 楽曲 「冬隣」 は1988年3月発売の曲であるが、楽曲 「紅い花」 が1991年10月発売の曲で、その翌年1992年に夫の郷^治と死別してから後は無期限の芸能活動休止中となっているため、この曲が最後のオリジナルシングルとなっていることを先日知った。
紅い花 / 作詞 松原史明 作曲 杉本眞人

昨日の夢を 追いかけて
今夜もひとり ざわめきに遊ぶ
昔の自分が なつかしくなり
酒をあおる
騒いで飲んで いるうちに
こんなにはやく 時は過ぎるのか
琥珀のグラスに 浮かんで消える
虹色の夢
紅い花
想いを込めて ささげた恋唄
あの日あの頃は 今どこに
いつか消えた 夢ひとつ

悩んだあとの 苦笑い
くやんでみても 時は戻らない
疲れた自分が 愛しくなって
酒にうたう
いつしか外は 雨の音
乾いた胸が 思い出に濡れて
灯りがチラチラ 歪んでうつる
あの日のように
紅い花
踏みにじられて 流れた恋唄
あの日あの頃は 今どこに
いつか消えた 影ひとつ

紅い花
暗闇の中 むなしい恋唄
あの日あの頃は 今どこに
今日も消える 夢ひとつ
今日も消える 夢ひとつ

 静謐な空間の中で彼女の吐息が静かに流れている。 そこには彼女が生きる日々がたゆたうとして漂っているかのようである。 今の今である刹那としての 「現在」 は彼女にとって 「過去と未来の置き所」 としてこれ以上ふさわしいところはないのである。 その世界は 「時は流れず」 の末尾に配した 「石の舟」 で描いた世界でもある。
石の舟
 以下の記載は2017年6月13日付け、日本経済新聞の文化欄、屋外彫刻 「記憶をつなぐ」 からの抜粋である。
 宇部市、常盤湖の畔に設置されているこの作品は、彫刻家、井田勝巳の出世作。 「第16回 現代日本彫刻展」 で大賞を受賞した。 作家は当時、高校で美術を教えながら夜はアトリエで制作に向き合う生活を送っていた。 花崗岩の玉石の上に据えられる六方石の巨大な舟。 上部には廃墟の街が彫られ、両側には担ぎ棒のような四角い石柱が嵌められる。 あるいはこれは石の棺か。 「明日が不安に感じるとき、失ってしまったはずの記憶が、優しく僕を包んでくれる」。 作家のこのコメントが示唆するものは ・・。 諸行無常。 失われた過去、変容しつつある現在、到来する未来。 その連続性と同一性を保証するものは記憶だ。 「あの世」 は失われた過去の棲家であると同時に我々の未来の棲家でもある。 月を 「あの世」 に見立てるならば、この作品を彼岸(過去・未来)と此岸(現在)を渡す舟(記憶)と見立てたくなる。 記憶のかたち。 石の舟は湖の畔で永遠の航海を続ける。
 失われた過去、変容しつつある現在、到来する未来。 その連続性と同一性を保証するものは 「記憶」 だとする記述は、まさに 「夢幻のごとく」 で論じた 「線形時間」 そのものであり、「此岸(現在)と彼岸(過去・未来)を行き来する永遠の石の舟の風景」 に図らずも相似している。

2022.01.20


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