Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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私の世界
 宇宙が過去も未来もない現在だけの世界であることを自覚すると次なる 「私の世界」 という世界観が見えてくる。 「真理はひとつ」 に掲載したトルストイの言葉の後段 「誰もが世界を変革することを考える、だが誰も己を変えようとは考えない。 芸術とは、人が己に起こった最高のまた最善の感情を他者に伝えることを目的とする人間の活動である」 がそれである。
 過去も未来もない現在だけの世界が 「私の世界」 であれば、対立する全体の世界は 「あってもなくてもいい」 ような世界へと一変してしまう。 トルストイはあってもなくてもいいような世界を変革しようとするなど 「大いなる徒労」 であるとし、為すべきは 「私の世界の変革」 であることを断言したのである。 そのうえで自らは小説家として 「私の世界」 に起こった最高、最善の感情を他者に伝えることを活動の目的とすると思い定めたのである。
 かくなる全体世界から私の世界への 「意識跳躍」 は顕教から密教へと意識跳躍を果たした天才、空海と同様、文豪、トルストイにしてはじめて可能となった跳躍であったのかもしれない。

2021.06.11


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