茶人、千利休が言ったという 「世の中のこと一杯のお茶にしかず」 とは、あたかも天下人として驕っていた豊臣秀吉に対する諫めの言葉であったかのようにも思われる。
この言葉が影響したかどうかはわからないが、のちに利休は秀吉から切腹を命じられている。 秀吉は謝罪すれば許すとしたのであるが、利休は自らの節を曲げることなく従容として死に臨んだ。
大きな世界の権力者として君臨する秀吉に微塵も屈することなく、小さな世界の住人である利休は臆することなく秀吉に堂々と対峙したのである。
だがその大きな世界の秀吉ものちに自らの死に臨んで作った辞世の句で 「露と落ち 露と消えにし我が身かな 浪速のことは 夢のまた夢」
と自らの生きとしをささやかな露の一滴にたとえたのである。 利休の 「一杯のお茶」 と対比するとき、いずれが大きな世界で、いずれが小さな世界なのかは
「渾然」 として判定することができない。
|