Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
Turn

現在とは現象である〜物質と意識の融合
 即身の場である現在を唯物論的視点で眺めると物理学が語る 「物質的運動」 の世界であり、唯心論的視点で眺めると心理学が語る 「意識的運動」 の世界である。 かって、第278回 「化石と幽霊」 ではその世界の対比を以下のように描いている。
 この宇宙が 「物そのもの」 だけで構成される科学の方法論で記述される 「唯物的世界」 であるとするならば人間は 「化石」 のようなものであり、宇宙が 「心そのもの」 だけで構成される心理学の方法論で記述される 「唯心的世界」 であるとするならば人間は 「幽霊」 のようなものである。 化石も味気ないが、幽霊も味気ない。
 また、ワームホールの命名者であるジョン・アーチボルト・ウィーラーは 「宇宙とは現象である」 と述べている。 ウィーラーは 「現実はすべて物理的なものではないかもしれない」 と問題提起した最初の物理学者である。 我々の宇宙は 「観測行為と意識を必要とする参加方式の現象かもしれない」 というのである。 想像と現実が融合した即身の場である今の今である 「現在」 を意識を必要とする参加方式の 「現象」 であると要約したウィーラーの直観力は 「詩心をもった物理学者」 の面目躍如たるものがある。 曰く、「現在とは物質と意識が融合した現象である」 と。
 さらに、物質と意識の結びつきを研究した英国の物理学者ロジャー・ペンローズが著した 「皇帝の新しい心」 は発表されるやいなやセンセーショナルな論争を巻き起こした。 ペンローズの理論が特徴的であるのは、統一理論の 「あるべき姿がいかなる思考から生まれるのか」 という従来の物理学にはなかったアプローチ方法の違いにある。 彼の理論は多分に荒削りではあるものの、もし彼の言うことが正しいとすれば、物理学の理論を一挙に統一するとともに、哲学の最難問とされる 「物質と意識の結びつき」 を解決する可能性を秘めている。

2021.01.12


copyright © Squarenet