Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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考えない葦
 人間は考える葦である。
 17世紀にフランスで活躍したブレーズ・パスカルの随想録 「パンセ」 の中で語られた言葉である。 人間はひとくきの葦のように孤独で弱い存在であるが、考えることができる 「思考する存在」 である。 パスカルはそこにこそ人間存在の偉大さと尊厳があることを見いだしたのである。
 しかして、現代人はパスカルが考えたような 「思考する存在」 なのであろうか? 時代が進めば進むほどに人間は考えなくなっていくようにみえてしかたがない。 それぞれに理由はあろう。 曰く、忙しくて考えてなどいられない。 曰く、考えても何も変わらない。 曰く、考えていたら生きていけない。 曰く、考えることなど人間がすることではない。 曰く。 曰く。 曰く。 考えないことの言い訳は尽きることなく連続する。 そこにはパスカルが称賛した人間に対する尊厳や偉大さのかけらもない。 考えない葦では孤独で弱い 「ひとくきの葦」 でしかないということか? 「元の木阿弥」 とはこのことである。
※)元の木阿弥
 いったんよくなったものが、再びもとの状態に戻ることの意。 戦国時代の武将筒井順昭が病死した時、死を隠すために、その子順慶が成人するまで、声の似ていた木阿弥という男を寝所に寝かせて外来者を欺き、順慶が成人するや順昭の喪を公表したことで、木阿弥は再びもとの身分にもどってしまったという故事による。

2020.09.03


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