新型コロナウイルスの感染拡大は社会から目指すべき目的と頼るべき価値観を喪失させてしまった。人は今、何をよりどころに生きて行けばいいのか途方に暮れているかのようである。人としての理性の源泉である目的と価値観が失われてしまえば、代わって動物本来の本能や情動が台頭することは自然の成り行きであろうし、小難しいことを考えて苦難に立ち向かうよりは弛緩と怠惰に生きたほうが楽だと考えるのもまた当然の帰結であろう。

　だがこの流れは、突如として現れたコロナウイルスによってもたらされたものではなく、繁栄した文明によって達成された豊饒なる生活の裏側にあらかじめ用意されていたのかもしれない。新型コロナウイルスの感染拡大はその 「きっかけ」 に過ぎなかったのではあるまいか？ この世に発生する出来事に不要な事などひとつとして存在しない。 目的と価値観を喪失した社会もまた 「何らかの必要に応じて到来した」 ものなのかもしれない。