Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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若き日のトラウマ
 時間は過去には進まないという 「時間の非可逆性」 の根拠は熱力学の根本法則である 「エントロピー増大の法則」 にある。 物理学の根源法則である 「エネルギ保存の法則」 に匹敵するこの法則を学んだのは大学での物理学授業でのことであったがいまだにその理解が曖昧で釈然としないままである。 担当教授は京大卒の女先生で黒板いっぱいに数式を書き連ね 「法則の証明」 を熱心に語っていたのであるが 「なぜか」 すんなりと頭に入ってこなかった。 その時はたまたま頭がぼんやりしていたせいかもしれないが、いまだにその 「トラウマ」 から逃れきっていない。 そのときはとりあえず 「時間の経過に従ってエントロピーは増大していくのみで減少はしない」 という法則の意味するところのみを覚えることにとどめて刻をやり過ごしてしまったのである。
 エントロピーとはある種の 「曖昧量」 と呼べるような数値であって、エントロピー増大の法則は時間の経過に従って物事が 「秩序だった状態から無秩序に変化する」 と説明される。 整頓された部屋も時間が経過すれば乱雑な状態へと進んでいくことは日頃体験することである。 その逆の乱雑であった部屋が時間の経過に従って整頓されることがないこともまた日頃体験することである。 この時間に対する秩序から無秩序に変化する流れは方向性をもっていて、その逆の流れはないとするのが 「時間の非可逆性の根拠」 であるとともに、また 「エントロピー増大の法則の根拠」 でもある。 つまり、時間は過去には進まず、エントロピーは減少しないということである。

2019.12.01


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