現代人は物質的な満足を求めているのか？ それとも精神的な満足を求めているのか？

　現代社会を虚心坦懐に眺めれば物質的には飽和状態に近づき、精神的には飢餓状態に近づいていることが観えてくる。 数百年も前の時代はこの逆で物質的には飢餓状態にあったが精神的には飽和状態にあった。 この違いを素直に考えれば 「人は物質的に豊かになると精神的には貧しくなる」 という仮説の可能性に行き着く。

　ではこの仮説の逆である 「人は精神的に豊かになると物質的には貧しくなる」 という可能性はどうであろう？ さらには 「人は物質的に豊かになるとともに精神的にも豊かになる」 という究極の可能性はあるのか？

　陽明学を創始した王陽明は知ることと行うことをひとつに融合する 「知行合一」 を唱えた。 だが、その実現には多大な困難がともなう。 同様に物質的豊かさと精神的豊かさをひとつに融合する、言うなれば 「物心合一」 もまた、その実現には多大な困難をともなうことが予期される。

　陽明が活躍した中国明代の世は官僚の汚職が蔓延し精神的荒廃が渦巻く閉塞の時代であった。 現代もまた倫理観が凋落し精神的退廃が重く社会を覆っていることでは変わりない。 であれば 「知行合一」 に代わる 「物心合一」 が時代の精神として再考されてしかるべきであろう。