未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
考えない工夫
「仏として生きる」 を極めた空海が求めた 「思いの力」 とは単純に言えば 「そう思う」 ことである。 だがその思いは中途半端なものであってはならない。 自らを信じることはそう簡単なことではないのである。 それを願う仏教者が寝ずに経文を幾100万回唱え続ける難行苦行がその様相を物語っている。
空海が成した即身 「仏として生きる」 とは、頭で考えてできるものではない。 骨身にしみるほどに自らにたたき込まなければ実現しない。 道を求めて彷徨した若き日の深山幽谷での過酷な修行はそのためのものであった。
頭脳に勝る現代人はすべての理解をその頭脳から発する認識で行おうとする。 情報化時代に至ってその傾倒の度合いは鰻登りの勢いであるが、すべての理解を頭脳で処理しようとすれば、いずれはノイローゼに陥ることは必然の帰結である。 妄想は妄想を生みとどまることなく拡大し、やがてはその身を覆い尽くしてしまうであろう。 笑えない冗談のような話ではあるが、現代人は今や 「考える工夫」 をするよりも 「考えない工夫」 をしなければならないのである。
2019.03.13
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