Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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禍福はあざなえる縄のごとし
 現代社会は病んでいる。 それは精神的な病である。 その原因が科学文明の成功がもたらした物質的な豊かさと物理的な利便性の獲得にあったとは何と皮肉なことであろうか。 かってその豊かさと利便性がなかった時代、人々の精神は青空に輝いていた。 科学的合理性の発展が必ずしも人々の心を豊かにすることには貢献しなかったのである。
 考えてみれば、それは当然といえば当然の帰結である。 物理学の基本的で根源的な法則とは 「エネルギ保存則」 である。 この世のエネルギは次々に姿形を変えて生成流転するがその変化の前後でのエネルギ総量は増えることも減ることもなく 「一定に保たれている」 という理がエネルギ保存則の骨格である。 かいつまんで言えば 「この世は何かが増えれば何かが減ってその合計は変わらない」 ということである。 つまり、科学文明によってこの世が物質的に豊かになっても、その裏では精神的に貧しくなって 「帳尻を合わせる」 ことはエネルギ保存則からすれば必然の成り行きなのである。
 何かが良ければ何かが悪いのは、日頃我々がよく経験することである。 私はそれを 「禍福はあざなえる縄のごとし」 という箴言をもじった 「禍福一体の理」 と呼んでいる。 この 「大真理」 の前にして人はもっと謙虚でなければならないのである。

2019.02.08


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