Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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月旅行と温泉旅行
 米国の SpaceX社 が巨大宇宙船を使った世界初の民間月観光旅行の乗客第1号として ZOZOTOWN 社長の前澤友作氏と契約したことを発表した。 そういう時代になったのかという感嘆とともに 「何かがおかしい」 という違和感が入り交じった不可思議な思いにかられた。 大冒険時代から始まった地球の表面探査は次々に拡大され今や行くところさえ見あたらない。 「狭い日本 そんなに急いで何処へいく」 という標語はやがて地球が 「球形の荒野」 と呼ばれるようになって地平線の彼方に消えていった。
 そして今度は 「月旅行」 の登場である。 人間のやることには果てしがない。 だがこれとて 50歩100歩 の話であってそう驚くことではない。 漱石の小説 「三四郎」 の中に登場する 「熊本より東京は広い 東京より日本は広い そして日本より頭の中のほうがもっと広い」 というくだりがそのことを物語っている。 何より弘法大師、空海が旅立った弥勒菩薩が住んでいる兜率天での寿命は 4000歳 で、その 1日は人間界の 400年 に相当するというのである。 なにせ、旅立った空海が弥勒菩薩とともに人間界に還ってくるのは 56億7000万年後 というのであるから。
 結局。 宇宙は 「細部は全体 全体は細部」 という重層構造を成す 「仕組みの世界」 であって、「遠い近い 大きい小さい」 という空間構造を成す 「広がりの世界」 では語れない。 であれば 「月旅行」 も近くの 「温泉旅行」 もその内容において異なるところは 「何もない」 のである。 感じた違和感の正体とはそのことであった。

2018.09.19


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