Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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新たな世界観〜けなげな社会
 熱力学者のイリヤ・プリゴジンが提唱した 「非平衡熱力学の散逸構造理論(自己組織化)」 は何を意味しているのであろうか?
 ほとんどの科学者はエントロピが増大し宇宙は 「大いなる熱死(熱的死)」 に向かっていると考えている。 エントロピとは 「でたらめさ(あいまい量)」 とでもいうべき熱力学上の概念である。 熱力学では 「でたらめ」 とは平衡を意味する。 宇宙の万物事象は放っておけばかならず熱力学的な平衡(完全な無秩序)に向かって移行していくのである。
 だが、生命は逆に無秩序に向かっているどころか、それに対抗して 「大いなる秩序」 を確立しようとしているかにみえる。 つまり、生命活動の部分においては 「エントロピが減少」 しているようにみえる。 波動力学を提唱したシュレジンガーが述べた 「生命は負のエントロピを食べている」 とはこのことを意味している。
 以上の状況をうまく説明したのがプリゴジンが提唱した 「非平衡熱力学の散逸構造理論(自己組織化)」 である。 全体系のエントロピが急速に増大している場合、部分系のエントロピに減少する部分があるとすれば、そこで何かがおこっていないとバランスがとれなくなる。 プリゴジンはそこに 「エネルギの散逸」 がおこっていると考えた。 散逸とは言うなれば 「消費」 である。 部分系エントロピである生命活動は自らの生命体をつくりだすことで発生したエネルギを部分系の外に放出し全体系エントロピの増大をうめあわせているとしたのである。 宇宙がエントロピの増大で 「大いなる熱死(熱的死)」 に向かっていく中で生命のみがそれに逆らって孤軍奮闘している姿が彷彿と浮かんでくる。
 また、生命の化学的多様性はエントロピが小さいことをあらわしている。 それは 「でたらめさ」 が小さいということであって 「情報量が大きい」 ことをあらわしている。 意識とは情報量がいちじるしく発達した状態をあらわしている。 生命は散逸構造であるとともに、それはまた 「情報構造」 のひとつのプロセスでもある。
 であれば、情報構造が急激に拡大している 「現代情報社会」 は、放っておけばかならず熱力学的な平衡(完全な無秩序)に向かっていく宇宙胎動を阻止すべく、日夜を分かたぬ闘いを敢行する 「けなげな社会」 であるかのような 「新たな世界観」 がみえてくる。

2018.09.17


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