Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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森田童子〜永遠性の確立
 シンガー・ソングライターの森田童子が4月24日死去した。 65歳であった。 彼女のことはベストエッセイセレクション 「森田童子の風景〜貫いた優しき世界」 に詳しい。 掲載は2017年6月12日であるからそれから1年足らずのことである。 以下の記載はそのエッセイ末尾からの抜粋である。
 私が森田童子を最初に知ったのはテレビドラマ「高校教師」の主題歌「ぼくたちの失敗」の歌手としてであった。 このテレビドラマを娘が観ていて、知らず私も見続けることとなり、森田童子の人となりをその娘から聞いたことに端を発する。 今までにはなかった曲想はその頃の「成熟したがゆえの変質」に向かう日本社会の様相を象徴しているかのようであった。 発売から17年を経てドラマとともに「ぼくたちの失敗」もヒットして森田童子の名も広く知られるようになった。 だが彼女は「この遠大な時間差のある称賛から顔を背けようとするように」かたくなに沈黙したままだったのである。
 それは、「意地でも地上には這いあがるまい」とする強い意志のあらわれであったのか?
 それとも、地下の歌姫として生涯を生きようとする矜恃であったのか?
 あるいは、自ら創りあげた「優しき世界」に対する義理立てであったのか?
 ともあれ「高校教師」のヒットからすでに24年の歳月が流れた。 思いをきめたあの日から数えれば、40年以上の時を費やした孤高の旅である。 彼女のか細き体のいったいどこに、そのような強靱な精神が隠されていたのであろうか? 今となれば遥かな時空の旅路を想うのみである。
 訃報に接し再び森田童子のか細き歌声に耳を傾けた。 そこからは65歳の彼女の姿が杳として浮かんでこない。 あの日のままである。 「貫いた優しき世界」 は永遠性を確立して時空の彼方に昇華していったのである。

2018.06.13


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