未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
豊饒の海〜その溺れ人
現代人が本を読まなくなったのは論理的な思考を望まなくなったということか? それに代わって情緒的な情想を望んでいるのか? その交代にともなって意識の伝達ツールが文字から写真や映像などの図形的なツールにシフトしているのか?
社会の価値観もまたそれに呼応するかのように変化して、今や東大卒のエリートの凋落は目を覆うばかりである。 東大卒よりもコンピュータのほうが 「頼りになる」 というわけである。 価値観の多様化は物事の核心を浮遊させ確と定めることの妥当性を喪失させる。 このありさまでは人が信じる 「何ものか」 は日に日に消え失せていってしまうであろう。 信じるものがない生き方とは、いったいどのようなものか? そこには充実感も喜びも感動もないであろう。 あるいは悲しみさえもないのかもしれない。
他方。 人が生きるにおいての利便性はこれ以上ないほどに増進されるとともに、物質的需給の豊饒さは過剰なまでに進展した。 だがこれらの達成が人間に幸福感を将来させたかには疑問符が付く。 それどころか逆に減退させたかのようにさえ観える。 あるいは、現代人は過剰なる利便性と物質性で満たされた 「豊饒の海」 の中でもがき苦しむ 「溺れ人」 なのかもしれない。
人は何のために生きるのか? しかしてどのように生きるのか? おおざっぱであってもこの問いに 「確かな方向性」 を見いださなければ 「明日への道」 は拓かれない。
2018.05.26
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