Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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ゲーテの不安〜250年前の予見
 現代人の危うさは衰弱した心にある。 四六時中、不安にさいなまれひとときも心の安まる暇がない。 こうでなければ ・・ こうしなければ ・・ 様々な抑圧が四方八方から重くのしかかる。 これでは五体が健全であったとしても、心の内から人間は崩壊してしまう。 こうなった原因は科学万能主義の度を超した横溢にある。
 科学的合理主義万能の喧噪が出発した当時(250年前)、ドイツの文豪、ゲーテ(1749〜1832年)はその科学的合理主義の行き着く先をまれにみる慧眼をもって予見し大きな危惧とともに警鐘を鳴らした。 だが彼はまた、いかなる警鐘をもってしても技術と科学の結合による世界の進歩的な改造が阻止し難いことも同時に知っていた。 彼はそのことを最後の小説「遍歴時代」の中で憂慮とともに次のように語っている。
 ・・・ 増大する機械文明が私を悩ませ不安にします、それは雷雨のようにおもむろに近づいて来ます、でもそれはすでに方向を定めました、やがて到来して襲いかかることでありましょう ・・・
 また友人への手紙の中では
 ・・・ 富と速さは、世界が称賛し、誰しもが目指しているものです、鉄道、急行郵便馬車、蒸気船、そして交通のありとあらゆる軽妙な手段は、開花した世界が能力以上の力を出し、不必要なまでに自己を啓発し、そのためかえって凡庸さに陥るために求めているものであります、そもそも現在は、すぐれた頭脳、理解の早い実用的な人間のための世紀であり、彼らは、たとえみずからは最高度の天分を有さずとも、ある程度の器用さを身につけているだけで衆に抜きんでるものと思っているのです ・・・
 その後、ゲーテの思想を研究したオーストリア生まれの文芸評論家、エーリヒ・ヘラーは、科学的合理主義の行き着く先を 「技術的進歩とは、地獄をもっと快適な居住空間にしようとする絶望的な試み以外のほとんど何物でもありません」 と簡潔にして直裁に語っている。
 遡る250年前にゲーテが危惧した不安はまさに的中したと言わざるをえない。 だがそのことをそのように理解している人は驚くほどに少ないのではあるまいか?

2018.05.10


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