未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
今は戦前である〜未来への伝言
「今は戦前である」とは癌で余命3か月の宣告を受けた映画監督の大林宣彦氏が「最後の講義」と題された番組の中で若者たちを前にして語った言葉である。
常識的に考えれば、多くの日本人は第2次世界大戦(太平洋戦争)あとの戦後に生きていると考えている。 だがそれは錯覚であって、その戦争の一部始終を体験してきた大林監督からすれば、現在の世界情勢や社会状況の様相はまさに 「かってあった あの戦争の前夜そのものである」 というのだ。
さらに、大林監督は大先輩の黒澤明監督の言葉をかりて 「戦争はすぐ始められるけれども 平和を確立するには 少なくとも400年はかかる」 と語る。 それは失ってしまったものの大きさと、それを自覚できなかった自らに対するやるかたなき悔恨の嘆息でもある。
ひるがえって、昨今の 「屋台骨が崩壊したかのような政治状況」 や 「どん底まで凋落したかのような倫理観」 をまともに眺めれば、誰しもが 「得たいの知れない末恐ろしさ」 を覚えるにちがいない。
今は戦前であるとは、未来に生きる者に向かって、死にゆく者がのこす万感をこめた伝言であろう。
2018.04.20
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