未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
さざんかの宿〜描かれた小説の世界
以下は演歌歌手、大川栄策が唄った「さざんかの宿」の歌詞である。
文章には口語体と文語体の別がある。 おおまかに言えば口語体とは「話し言葉」であり、文語体とは「書き言葉」である。
「さざんかの宿」を文体で考えれば、1番では「あなた明日が 見えますか」の部分がだけが口語体であとは文語体で書かれている。 2番も同様に「かんでください 思いきり」が口語体であとは文語体である。 3番もまた同様に「夢を見させて くれますか」が口語体であとは文語体である。
それを文体の作用で考えれば、口語体の部分ではその場で語られた人間の「意志(情感)」が話し言葉で表現され、文語体の部分ではその語られた人間の意志(情感)が生まれた「背景(場面)」が書き言葉で表現されている。
口語体(話し言葉)と文語体(書き言葉)が混合する文章を他にさがせば想起されるのは「小説」であろう。 言うなれば「さざんかの宿」で描かれた唄の世界は字数は少なくとも「小説」ということになる。
アメリカのミュージシャン、ボブ・ディランが2016年度のノーベル文学賞を受賞したとき世界中から激しい賛否の声があがった。 「音楽としての作詞が文学なのか」ということであろう。 だが上記したごとく、演歌「さざんかの宿」が小説であるならば、それは立派な文学であって、文豪の長編小説と何ら遜色はない。 大切なことは 「描かれた世界の何たるか」 だけであろう。
「さざんかの宿」 作詞 吉岡治 作曲 市川昭介
1 くもりガラスを 手で拭いて
あなた明日が 見えますか
愛しても 愛しても
あゝ他人の妻
赤く咲いても 冬の花
咲いてさびしい さざんかの宿
2 ぬいた指輪の 罪のあと
かんでください 思いきり
燃えたって 燃えたって
あゝ他人の妻
運命かなしい 冬の花
明日はいらない さざんかの宿
3 せめて朝まで 腕の中
夢を見させて くれますか
つくしても つくしても
あゝ他人の妻
ふたり咲いても 冬の花
春はいつくる さざんかの宿
2018.04.18
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