Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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映画「君の名は」に想う(4)〜時間も空間もない世界
 映画「君の名は」に想う(3)では「無限変身」との相似性について書いた。その物語の構造はまた第1152回で描いた「時間も空間もない宇宙構造」でもある。そこでは「線形時間を廃棄」することで導かれた重層的に重ねられた空間構造とその構造を統合することで行き着いた以下の究極の帰結が提示されている。
 宇宙には過去も未来もなく(つまり、時間がなく) ただそれらが重なった「現在だけ」がある。
 宇宙には遠いも近いもなく(つまり、空間がなく) ただそれらが重なった「仕組みだけ」がある。
 「君の名は」で語られる世界は隕石の落下で壊滅してしまう架空の町「糸守町」での出来事を挟んだその前後の時空間であろうが明確ではない。時として出来事の前であったり後であったりする。それは上記した「過去と未来が現在に含まれている重なった世界で構成された時間も空間もない宇宙構造」そのものである。その様相を第1150回「連なった世界と重なった世界」では以下のように書いている。
 通常、歴史小説は時間軸に沿って構成された「連なった物語」であると考えられているが、過去・現在・未来で構成された線形時間が存在せず「過去や未来は現在に含まれている」という「時は流れず」の立場からこの歴史物語を論じれば、歴史小説は時間軸に関係なく構成された「重なった物語」であると考えることができる。重層的に構成された「ある歴史物語」から他の「ある歴史物語」への遷移は非日常的歴識空間に掛け渡された「時空のトンネル(意識のワームホール)」を通過することで可能となる。
 重なった世界の境界は物理学が言う「特異点」であって科学理論は破綻している。「君の名は」ではその特異点の様相を「互いに身体が入れ替わっている少女と少年がそのひとつの世界から別のひとつの世界に移ると同時に前にいた世界のことを忘れてしまうという現象」をもって描いている。
 物語のラストは現在の時空間に戻った少女と少年が都会の片隅にある石段の途中ですれ違う場面で構成されている。すれ違う2人は互いにどこかでかって出逢ったことがあるような奇妙な感覚を抱き「どこかでお会いしましたか ・・ 君の名は。」で終わる。

2018.01.08


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