・・・ 少々うつむきかげんに腰をおろし、右足を左足の上にのせ、左手はその右足をおさえるように置かれ、右手はほほにふれるか、ふれないように添えられている。そして、なにより美しいのは、その「思惟」の表情であった。目は軽くとじられ、口もとに何とも言えぬほほえみを浮かべている。それは静かな、そして深く考え込むというよりは、瞑想にひたっているようである。口もとに浮かべたほほえみはアルカイック・スマイル(古典的微笑)などと言われ
・・ およそ愛の表現として、この像は世界の芸術の中に比類のない独特なものではないか。これよりも力強いもの、威厳あるもの、深いもの、あるいはこれより烈しい陶酔を現すもの、情熱を現すもの、それは世界に希でもあるまい。しかし、この純粋な愛と悲しみとの標号は、その曇りのない専念のゆえに、その徹底した柔らかさのゆえに、おそらく唯一の味を持つ
・・ 古くは古事記の歌から、新しくは情死の文学まで、ものの哀れと、しめやかな愛憎を核心とする日本人の芸術は、すでにここにその最もすぐれた、最も明らかな代表者をもっているのである。あの悲しく貴い半跏の観音像は、かくみれば、われわれの文化の出発点である
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