Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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酒場にて(2)〜破綻
 松本市の小さなスナックで関西学院大学教授の宮原浩二郎君(あえて君というのは彼が教授と言われることを好まないため)と飲んだ時のことである。
 私たちの隣席では 少々酩酊状態の青年たち3人が カラオケで気勢をあげていた。 その内の1人の歌唱に対し 宮原君が「君の歌は破綻していない」と言ったのである。 言われた当人は 目を丸くしていたが しばらくして まんざらでもない表情を浮かべた。 彼の歌は右にふらふら 左にふらふら 行きつ戻りつ あたかも断崖絶壁の稜線をかろうじて渡っているような危うさであったが 決して足はふみはずさないものであった。 さらにその乱調子が 歌唱に独特な情感を醸し出し いうなれば「聴かせる歌」となっていた。 それを宮原君は「君の歌は破綻していない」と評したのである。
 破綻しているかいないかは「重要なポイント」である。 奇才ビートたけしの 過激なつぶやきは 破綻しているようで決して破綻していない。 名だたる政治家の整然たる演説は 破綻していないようでまったく破綻している。 ニーチェ哲学の研究者でもある 宮原君のような人跡未踏の荒野を拓く者にとっては 破綻しているか否かは「生命線」である。 時としてその限界を歩かなければならないが 破綻してしまっては何もならないのである。 ゆえに宮原君は 教授として「君の歌は破綻していない」という 最高の讃辞 を彼に授与したのである。
 「破綻」と「矛盾」は似て非なるものである。 それは矛盾していても破綻していない ということもあれば 矛盾していなくとも破綻している ことがあるからである。 つまり 破綻とは 矛盾という論理性をも超えた 「思考中枢の本質的概念」 にもとづいているのである。

2017.11.27


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