芭蕉が初夏の青葉あふれる奈良の唐招提寺の鑑真和上の座像を拝した時に詠んだ句である。鑑真は幾度もの難破の末に日本渡航を成功させ仏教の戒律を伝えた中国の高僧であり、渡航中に失明し盲目のままに仏教の興隆に尽くした。本国には再び帰ることなく日本の地で没している。句は芭蕉45歳の作で、唐招提寺を訪れたのは鑑真が没して千年の歳月が流れていた。芭蕉は鑑真の難行苦行に思いをはせ、像を拝した際にその雫が目に涙をうかべているかのように見えたのであろう。芭蕉は像を囲んでいた初夏の瑞々しい若葉をもって鑑真の涙をふいてあげ、その目にかくも美しい日本の自然(宇宙)を見せてやりたかったのではあるまいか。
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