この歌の題詞に「明日香宮より藤原宮に遷居りし後に志貴皇子の作らす歌」とある。遷都が行われるや人々は明日香を離れてしまう。建物も使えるものは移築したであろう。取り残された明日香はすっかり寂しい場所となってしまった。都を彩った采女達の華やかな姿は今はなく、空しく風が吹きすぎるだけである。どのような理由で志貴皇子が旧都、明日香を訪れたのかはわからないが、吹きすぎる風の中に1人佇み、幻想の中に華やかに着飾った采女達の姿を見たのであろう。志貴皇子の母もまた采女であったことからすれば、あるいは若き日の母の姿をも、その中にみたのかもしれない。
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