Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
Turn

最高の資産への回帰
 人間にとっての最高の資産は考える頭脳と思う心である。
 だが現代人の資産に対する考え方はそのような抽象的なものではなく、現金であり、株券であり、不動産であり ・・ 直接、かつ速やかに換金化できるものに限られている。まさに現代人は「お金次第の価値観」に埋没しているかのようである。
 だがその価値観に従って生きてみても、年齢を積み上げその時に至れば、免れることなく、ひとり、この世を去っていく。それはこの世を生きるにおいて、お金に恵まれなかった人にとっては「免罪符」であり、恵まれた人にとっては「特権の消滅」である。貧者も富者もそこで「0にリセット」されてしまう。巷間、人生は「命あっての物種」と言われるが、それは0にリセットされてしまう事実に裏打ちされた感慨に端を発した物言いである。
 最期には0にリセットされるからといって、お金に振り回されて、この世をあくせく生きることは願い下げである。願わくは人は楽しく生きたいのが本音であろう。高杉晋作の辞世の句「面白きことのなき世を面白く」は、その本質を見抜いた晋作のライフスタイルをあらわしている。生きいた時間は短くはあったが、晋作はその言葉どうりのライフスタイルを貫いて維新回天の世を駆け抜けていった。おそらくそれは人生の終端にある0へのリセットを充分に覚悟したがゆえの選択でもあったであろう。そこには現代人のようなお金次第の価値観は感じられない。お金は面白き人生を創出するための道具としての意味はあっても目的ではなかったはずである。
 同様にある者は0へのリセットを覚悟して「時間からの自由」を求めるかもしれない。静かにゆっくり流れる時間こそが生きる価値であるとするライフスタイルの実現である。またある者は0へのリセットを覚悟して「精神の自由」を求めるかもしれない。誰からも拘束されない自由な心こそが生きる価値であるとするライフスタイルの実現である。一見するとお金次第のライフスタイル全盛の現代ではあるが、思考をめぐらせば潜在する多様なライフスタイルの可能性が観えてくる。
 それを可能にするのが「考える頭脳と思う心」であるとすれば、抽象的ではあっても、人間にとって「それが最高の資産」であり、「すべての源泉」であることにはまぎれもない。

2017.05.27


copyright © Squarenet