Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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宇宙は真空を嫌う
 「宇宙は真空を嫌う」と言われる。
 そこに真空が生まれようとすると直ちにその真空を何ものかで充填しようとする。万物事象の生々流転とは、かくなる真空を嫌う宇宙の絶え間ない充填活動の産物とも言えよう。
 真空を何もない「無の空間」として考えれば、宇宙は無を嫌うということになる。それはあたかも人間社会が嫌う無と等価な構造を成している。人は継続する会話の中で、ふと生まれる「沈黙の無」を嫌う。人は考え続けることはできても、「考えを停止した無」を続けることはできない。人は為すべきことが何も無い「無為」を嫌う。定年後も働き続けるのはそのためである。
 禅では無我無心の「無の境地」を尊ぶが、それはその境地が人間にとって達成不可能な境地であるがゆえである。むしろ人の心は雑念で満たされるのが自然であって、もしその雑念のすべてを取り去った無の心があるとしたら、それは死者の心であったとしても、もはや生者の心ではあるまい。
 目指すべきは無の境地ではなく、あらゆるものを充填してなお止むことがない、有の境地にこそあろう。 宇宙が真空を嫌う本当の理由もまた、そのあたりにあるのかもしれない。

2017.04.18


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