未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
塹壕からの突撃〜撃たれる確率とは
第2次大戦から帰還した、とある退役軍人(老兵)の話である。それは身を潜めていた塹壕から突撃命令で飛び出すとき、「何番目に飛び出すのが撃たれる確率が最も低いか」という生々しい「命を賭けた選択」についてである。
まっ先に飛び出す ・・ 中ほどで飛び出す ・・ 最後に飛び出す ・・ 等々の選択肢が考えられる。兵士は各々の価値観に基づいて飛び出していったという。
帰還できた老兵の選択は「まっ先に飛び出す」であった。理由は、待ちかまえる狙撃兵がどこから飛び出すかわからない敵兵を時間差なしで射撃することはできない。撃てるのは現れた先頭兵士を確認したのちである。この「わずかな時間差」こそが生死を分ける「大きな時間差」であることを発見した老兵は「まっ先に飛び出す」ことが最も撃たれないと考えたのである。この確率が正しかったかどうかは知る由もないが、老兵はその「わずかな時間差」に賭けた決断によって生還できたと信じて疑わなかったのである。
ことの真偽はともかく、驚嘆すべきは絶体絶命の状況の中でさえ、最後の最後まで「考え続ける」という人体にそなわった底力への畏怖と畏敬である。これがあったがゆえに度重なる危機を乗り越えてさえ人類が今なお地球に生き続けていられるのである。
フランスの哲学者パスカルは「人間はひとくきの葦にすぎない 自然の中で最も弱いものである だが それは考える葦である」と言った。 まさにその通りである。
2017.03.21
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