未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
カラオケ狂奏曲〜奏でた時の流れとは
前ぶれもなくやって来た「バブル」と呼ばれた熱狂的現象が戦後懸命に積み上げてきた経済的成功の結果であったのか それとも行きすぎた成功体験の狭間に生まれた精神的弛緩がこの世に咲かせた徒花(あだばな)であったのか 今となれば判然としない 熱波は燎原の火のように瞬く間に日本全土に広がり 津々浦々を焼き尽くすや 断りもなく忽然として去って行った
1990年代中頃 とある地方都市の歓楽街にもバブルの終焉が近づいていた 昨日までの盛況が忘れられない者たちはその余韻にひたっていようと無駄な抵抗を試みている だが 肩が触れあうほどに賑わっていた通りからは いつしか 足音を忍ばせるように ひとりふたりと消えていき 足並みをそろえるように 彩った店のネオンもまた ひとつふたつと消えていく
時刻を奏でていたカラオケは協奏曲ではなく「狂奏曲」であったのだ その狂奏曲の調べに乗って 老いも若きも ミッドナイトブルーに染まった夜更けの街を 目くるめく駆け抜けていたのだ いったいぜんたい あの者たちは何処へ行ってしまったというのか?
人影途絶えた通り 明るさを失った街灯がぼんやりと道筋を照らしている どこから現れたか 一匹の野良犬が右に左に餌をあさりながら 彼方の闇に向かって溶けるように消えていった
そう時代は いつも すべてを忘却の彼方に置き去りにして通り過ぎていく 私には懐かしき時代の面影となってメダルのように輝いているというのに ・・・
以上は「カラオケ狂奏曲」と題する小説のプロットである。だがそのことを当時の仲間に話すと「頼むから俺は登場させないでくれ」と言われる。今ではかくこの小説を執筆できないのは「そのためだ」と自己弁護の理由にしているのだが。
2017.02.14
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