未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
信州つれづれ紀行 / 時空の旅
八島湿原 / 長野県諏訪郡下諏訪町
晩秋の高原
訪れた八島湿原は今年を締めくくるかのように晩秋の風が枯れた萱草の頭上を渡っていた。それでも秋晴れの晴天に恵まれたせいか湿原を周回する遊歩道には散策するハイカーの姿があった。異常気象にさいなまれた1年であったが霧ヶ峰の自然はともかくも肩の荷を下ろしたかのような穏やかな気配に包まれて横たわっている。
ふと足下に視線をおとすと色を失いドライフラワーのようになったアザミのひと株が陽射しを浴びて屹立している。八島高原は「あざみの歌」発祥の地である。昭和20年に復員してきた当時18歳の横井弘が、疎開先であった下諏訪のここ八島高原で、野に咲くアザミの花にみずから思い抱く理想の女性の姿をだぶらせて綴った歌詞に、八洲秀章が曲をつけたものである。戦争で荒廃した青年のこころをこの大自然がいやしてくれたのである。それから星霜69年の時が流れたことになる。
あざみの歌
山には山の 愁(うれ)いあり
海には海の 悲しみや
ましてこころの 花ぞのに
咲しあざみの 花ならば
高嶺(たかね)の百合の それよりも
秘めたる夢を ひとすじに
くれない燃ゆる その姿
あざみに深き わが想い
いとしき花よ 汝(な)はあざみ
こころの花よ 汝はあざみ
さだめの径(みち)は はてなくも
香れよせめて わが胸に
2014.10
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