池上秀畝(1874〜1944)が伊那高遠の生まれで、その生年が少し南に位置する飯田市に生まれた菱田春草(1874〜1911)と同年であったことは、この展覧会ではじめて知ったことである。北に位置する松本市には、菱田春草、横山大観、下村観山とともに初期日本美術院の四天王とよばれた西郷孤月(1873〜1912)がいる。ともに同時代に生きて、近代日本画の草創期を支えた逸材が、そろって信州出身であったことは驚きであるとともに、不思議な縁を感じる。そんなことを考えるでもなく考えながら歩いているうち、春草の名作「落葉」が浮かんできた。失明の危機にさらされながら描いた、生涯を代表する傑作である。描いてから2年あまり、満37歳の誕生日を目前にして、春草はこの世を去っている。
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