Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
信州つれづれ紀行 / 時空の旅
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善光寺 雲上殿 / 長野県長野市
朱色の大塔
 宗派を問わない善光寺には古くから納骨の風習があり、全国各地からの遺骨を納めて極楽往生を祈ってきたという。雲上殿は昭和24年に落慶したその納骨堂である。善光寺本堂から北へ約1キロ、大峰山の中腹、善光寺平を一望する高台に佇んでいる。
 鮮やかな朱色の堂宇を眺めているうちに、高野山に佇む「根本大塔」との類似性に思いが至った。真言密教を創始した空海こと弘法大師が、最後まで完成を夢見た多宝塔である。大塔は真言密教の根本道場であって、本尊は胎蔵大日如来、周りには金剛界の四仏が取り囲み、16本の柱には堂本印象画伯の筆になる十六大菩薩、四隅の壁には密教を伝えた八祖像が描かれ、堂内そのものが立体曼荼羅を構成している。この大塔は師の意志を継いだ2代真然大徳によって完成をみた。
 あらゆる衆生を極楽浄土に導こうとする善光寺如来の意志と全国各地から集った納骨、今なお弘法大師が入定されているとされる奥の院に向かう参道の両側に並ぶ20万基を超える全国各地から集った墓石。類似しているのは堂宇の形状のみならず、その思想もまた同じく類似している。信濃善光寺と南紀高野山に引かれた点と線のかすかな痕跡がかいま見えるようであるが、仰ぎ見る朱色の大塔は、そしらぬ顔で、全身に西日を浴びてシンとしている。
2011.10

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