霧ヶ峰高原から諏訪に下りる途中にある蓼の海は、映画「いま会いにゆきます」のロケ地で、昨夏に撮影に来たことがあった。その折は池が改修中で水がなく撮影は断念した。今日は雨天の中、これといった撮影もできず、蓼科から霧ヶ峰とまわっての帰路、ふと思い出してよってみたのだが、工事はいまだ終わってはいなかった。

　かっては天然のスケートリンクとして、良質な氷が張ることで知られ、数々の日本記録が打ち立てられたことから「記録製造リンク」と呼ばれ、全日本スピードスケート選手権をはじめ、多くのスケート大会が開催されるとともに、オリンピックの代表選手が合宿を行うなど、日本屈指のスケートリンクとして全国に知られていたのだが、メンテナンスが容易な人工リンクの台頭によって1970年代には閉鎖された。もはやこの池がそのような来歴をもつことさえ人々の記憶から消えて久しい。眼前にする静寂の湖畔は、かって背負った「栄光の日々」を永遠の刻の流れに浮かべて回想しているかのごとく、霧雨に包まれ、ひとり寂しく佇んでいる。