Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
信州つれづれ紀行 / 時空の旅
Linear

富士見高原ゆりの里 / 長野県諏訪郡富士見町
恋人
 たどり着いたときにはすでに園内に「蛍の光」が流れ、「ゆりの里」は閉園を告げていた。暑かった一日もようやく終わりに近づき、涼風が吹き抜け、柔らかな西日が山腹を照らし出している。このまま帰るに忍びず、園内を眺める駐車場の縁に三脚を据えて撮影していると、どこか遠方から訪れたのであろうか、1人の観光客(中年おじさん)が、「どこかから中に入れないかな・・・」と独り言のように、あるいは私にたずねるように、つぶやきながらワイヤーが張られた柵に近づいて行った。見ると柵には「通電中」の看板が、あわてて「電気が流れていますよ」と呼びかけると、しぶしぶ引き返してきた。
 「中に誰かいるのですか」とたずねると、「恋人がね」と、にっと笑った。
 笑い返すと、「あんたも同じでしょ」と言う。
 つまりは、このおじさんにとっては、「ゆりの花は恋人」というわけであり、撮影しているあんたもまた、「それは同じだ」というわけである。
2010.7

copyright © Squarenet