未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
信州つれづれ紀行 / 時空の旅
小諸 懐古園 / 長野県小諸市
小諸なる古城のほとり
小諸と言えば懐古園、懐古園と言えば島崎藤村と続く。もとは小諸城の城址であり、城は武田の軍師、山本勘助によって縄張りされたものとされ、その後、豊臣秀吉の家臣であった仙石秀久が小田原攻めの軍功により5万石で封ぜられ、今に残る天下無類の堅固な城郭として完成させたものである。
藤村は明治32年、小諸義塾の教師としてこの地に赴任。以降、小諸で6年余りの時を過ごした。その中で作られた千曲川旅情の歌「小諸なる古城のほとり」はあまりに有名である。千曲川を眼下に見下ろす崖の上にその歌碑が立っている。
小諸なる古城のほとり
小諸なる古城のほとり 雲白く遊子悲しむ
緑なす(はこべ)は萌えず 若草も藉(し)くによしなし
しろがねの衾(ふすま)の岡辺 日に溶けて淡雪流る
あたゝかき光はあれど 野に満つる香(かをり)も知らず
浅くのみ春は霞みて 麦の色わづかに青し
旅人の群はいくつか 畠中の道を急ぎぬ
暮れ行けば浅間も見えず 歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の 岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて 草枕しばし慰む
島崎藤村/落梅集より
2010.4
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