美ヶ原高原の東山麓の山裾に広がる静かで穏やかな武石の集落を見下ろす高台に、この博物館はたたずんでいた。訪れた日はあいにくの冬季休館中であって、館内を観ることはできなかった。ひなびた山里に「ともしび博物館」とは場違いで奇妙な感懐を覚えたが、考えてみると、「ともしび」を操った動物など有史以来、人間以外に例がなく、かかる「ともしび」から人類がたどったであろう生活の進歩を思索分析することは「さもありなん」の視点である。ともしび博物館の創設を企画した斬新な発想に感心させられる。人影絶え静寂に包まれた日本庭園の趣に惹かれてカメラをむけたのであるが、撮影しながら「このカット」はどこかで見た気がすることに思い至った。それは三島由紀夫の絶筆(死の前日に完成した)「豊饒の海/天人五衰」の最終章に登場した「音や動きを失った真っ青な雲ひとつ無い空と、その下に存在する緑の松山と、ひざかりの陽を浴びてしんと静まりかえった尼僧院の白い石庭の風景」との類似情景であった。
|