Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
信州つれづれ紀行 / 時空の旅
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小海町高原美術館 / 長野県南佐久郡小海町
安藤忠雄の世界
 多くを期待せずに行った美術館に思わぬ発見をして心満たされることがある。小海町高原美術館はそんな美術館であった。そしてまた長らく行こうと思いつつも行けなかった美術館でもあった。茅野の蓼科高原から麦草峠を越えて佐久の松原湖高原に抜ける山岳道路があるが、蓼科側から、松原湖側からと、幾度か途中までは行ってはUターンしてしまい、つなげて走り抜ける機会に恵まれなかった空白の中間地帯に、この美術館は位置していたのである。今回は意を決して蓼科側から麦草峠を越えて目指したのであるが、何のことはなく、逆の松原湖側から行けば、湖から少し登ったところの高台にあったのである。
 それはさておき、美術館のことである。設計は現代建築界を牽引する安藤忠雄氏であるという。氏がなにゆえに片田舎の高原にある小さな美術館を設計する運びになったのか知る由もないが、ここには「安藤忠雄の世界」、換言すれば「小宇宙」のようなものが確かにあった。それは高原の大自然と対峙してゆるぎないもののようにみえた。巨費を投じて建設される壮大な美の殿堂もまた素晴らしいものであるが、それは物体的な大きさからくるものであって、この小さな美術館のように建築家(あるいは人間)の精神的な大きさからくるものではない。訪れる人はお世辞にも多いとは言えないが、私としては今日一日得をしたような、いい気分にさせてもらった佳き美術館であった。
2009.6

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