それはさておき、美術館のことである。設計は現代建築界を牽引する安藤忠雄氏であるという。氏がなにゆえに片田舎の高原にある小さな美術館を設計する運びになったのか知る由もないが、ここには「安藤忠雄の世界」、換言すれば「小宇宙」のようなものが確かにあった。それは高原の大自然と対峙してゆるぎないもののようにみえた。巨費を投じて建設される壮大な美の殿堂もまた素晴らしいものであるが、それは物体的な大きさからくるものであって、この小さな美術館のように建築家(あるいは人間)の精神的な大きさからくるものではない。訪れる人はお世辞にも多いとは言えないが、私としては今日一日得をしたような、いい気分にさせてもらった佳き美術館であった。
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