映画「黒部の太陽」は、飛ぶ鳥も落ちると言われた北アルプス黒部峡谷に壮大なダムを建設するため、建設資材運搬用の隧道(トンネル)を針木岳を貫いて苦難の末に開削するという、事実にもとづいた感動のドラマである。未曾有の工事は、途中幾度も「破砕帯」という出水をともなう断層に悩まされながらも技術者たちの不撓不屈の精神で艱難辛苦を乗り越え、ついには完成する。大学出の優秀な土木技術者、裕次郎は難関を突破する起死回生の新たな工法を考え出すにとどまらず、現場の最前線に立ち、意気消沈する作業員を叱咤激励、自らも削岩機を持ち、獅子奮迅の活躍をする。私もそうであったが、当時技術者を目指す日本の若者は、誰もが裕次郎の姿に「理想の技術者像」を思い描いていたのである。技術者になりたいとは、かくこのような「現場に立ちたい」という「憧れ」と、自らの力で自然に立ち向かい「不可能を可能にする」という「夢」のためであって、今となれば不思議ではあるが、給料や待遇など、ほとんどと言っていいほどに「無頓着」であった。
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