そのワンカットをとらえたのは、ある5月の連休でのことであった。松本市街と安曇野を眼下に俯瞰するアルプス公園内にあるささやかな動物園、その猿山でのことである。 |
私はいつものように映像技術開発のための素材を求めて、三脚に固定されたビデオカメラのファインダーを覗いていた。隣では母親に連れられた年の頃、5歳と6歳ほどの兄弟が手すりにもたれて「あれがボス猿だ」、「いやあれがボスだ」と言い合っている。 いつも思うのだが、なぜかファインダーを覗いている撮影者は周囲からすると「物体でしかない」ようなのである。 気兼ねすることなく思いのままの心情を吐露する。 そんなさなか、長兄がつぶやいた「猿の人生は厳しい
・・」は歳を超えて絶妙のアイロニーに満ちていた。餌を奪い合っている彼らをつぶさに眺めていたのであろう。 だがそのあとに発せられた母親の「そうよ
・・ 貴方みたいなことをしていると将来そうなってしまうんだから!」という強烈な断言には笑いをこらえて覗いていたファインダーの映像が揺れたほどであった。 言われた兄弟の憮然とした様はいうまでもないことである。
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映像はあますことなくすべての実在を写し取る。 だが私がとらえた「ワンカット」には、その写実を超えて実在の裏側に漂うエモーションまでがとらえられていたのである。
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