以下は私が機械工学科の学生であった頃の出来事である。 師は新幹線の車輪の設計を担当したその道の権威であった。 ある日の授業で師は「君たち新幹線の車輪の安全率はどのくらいだと思いますか?」との問いを投げかけた。 当時250Kmの時速を誇る超特急である。教室内からは3程度
・・ いや5程度なければ ・・ 等々の声があがった。安全率とは破壊強度にたいして何倍の強度をもたせるかの度合いである。 師曰く「安全率をそのように大きくしたら車輪を支える車軸は丸太のように太くなり車体は重戦車のごとく重くなってしまう
・・ そのようなものを250kmを越える速度で走らせることは安全だと思いますか?」 脳裏にその姿を思い描いた私は「そりゃそうだ」と頓悟した。 続けて師曰く「機械設計の眼目はかくこのように、ほどよい適度が大切なのです
・・ もつかな? もたないかな? でももった、という状態がベストなのです」と。 師の教えは機械技術者として生きてきた私の道標として今なお導き続けている。
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