Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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過ぎたるは危険の如し
 日頃常用する「過ぎたるは及ばざるが如し(過ぎたるはなお及ばざるが如し)」という故事がある。何事もやり過ぎることはやり足りないことと同じでよくないという意である。我々はそれをより佳く生きるための助言(アドバイス)のように思っているが、実のところは助言どころか「それは危険である」とする警句と考えたほうがよい。
 以下は私が機械工学科の学生であった頃の出来事である。 師は新幹線の車輪の設計を担当したその道の権威であった。 ある日の授業で師は「君たち新幹線の車輪の安全率はどのくらいだと思いますか?」との問いを投げかけた。 当時250Kmの時速を誇る超特急である。教室内からは3程度 ・・ いや5程度なければ ・・ 等々の声があがった。安全率とは破壊強度にたいして何倍の強度をもたせるかの度合いである。 師曰く「安全率をそのように大きくしたら車輪を支える車軸は丸太のように太くなり車体は重戦車のごとく重くなってしまう ・・ そのようなものを250kmを越える速度で走らせることは安全だと思いますか?」 脳裏にその姿を思い描いた私は「そりゃそうだ」と頓悟した。 続けて師曰く「機械設計の眼目はかくこのように、ほどよい適度が大切なのです ・・ もつかな? もたないかな? でももった、という状態がベストなのです」と。 師の教えは機械技術者として生きてきた私の道標として今なお導き続けている。
 つまり、いき過ぎることも、またいき足らないことも、生命の危機に波及しかねない重大事なのであって、冒頭に掲げた故事を、ゆめゆめ助言やアドバイスなどと軽く考えていてはならないのである。それはまた「危うきに遊ぶ(第885回)」という心もちに通底で一致するものでもある。

2015.10.03


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