Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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持っているものは暇だけ〜絶対矛盾的自己同一の世界
映画フーテンの寅「寅次郎サラダ記念日」のワンカット。
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信州小諸で出会ったおばあちゃんに次のバスはいつ来るのかと尋ねる寅次郎。
「1時間先だよ」とおばあちゃん。
「まあいいか・・俺の持っているものは暇だけだから」と寅次郎。
「暇なら家に来ないか」とおばあちゃん。
「俺はこう見えても忙しいんだ」と寅次郎。
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 信州を渡る風に吹かれ颯爽と立つ寅次郎の姿が彷彿と目に浮かぶようである。それはまた日本を代表する哲学者、京都学派の創始者である西田幾多郎(1870.5.19〜1945.6.7)の「絶対矛盾的自己同一」を体現した世界でもある。フーテンの寅こと車寅次郎はその矛盾的世界を軽々と超えていったのである。孤高の吟遊詩人が演じた面目躍如たる風景である。
※絶対矛盾的自己同一
 相反する2つの対立物がその対立をそのまま残した状態で同一化すること。西田は2つの対立が一体であることを実感することで人は悟りの境地に至ることを示した。天と人とは対立物であるが「我はすなわち天なり、天すなわち我なり」と悟った瞬間に世界観は一変するのである。かかる境地は日本人が禅において、あるいは武士道において、古来より目指してきたものでもある。

2015.04.25


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