Linear 未知なる時空を訪ねる旅の途中でめぐり逢った不可思議な風景と出来事
知的冒険エッセイ / 時空の旅
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バタフライ効果
 「永遠の時間を想定すれば、あらゆるものはいずれは出発点に戻り同じことを繰返す」ことを数学をもって証明してみせたフランスの数理物理学者、アンリ・ポアンカレ(1854年〜1912年)はまた、「初期条件のわずかな差(誤差)が、最終的な現象ではきわめて大きな差(誤差)を発生させ、予測を不可能にしてしまう」ことも指摘した。
 その指摘はごく小さな原因がとてつもなく大きな予測もできない結果につながってしまう複雑系の世界を扱ったカオス理論における「バタフライ効果」と相似する。バタフライ効果とは、アメリカのアイオワ州を飛び回る蝶々の羽ばたきが遥か彼方のインドネシアで発生する異常気象現象の引き金になりえるとするところから来ている。
 これらの複雑系の解析に絶大な力を発揮するのがコンピュータである。人類が発明した最も偉大な道具はもっかのところ「顕微鏡」、「望遠鏡」、「コンピュータ」の3つであると言われている。顕微鏡は肉眼では見えない微小なミクロの宇宙を、望遠鏡は肉眼では見えない巨大なマクロの宇宙をかいま見せてくれた。そしてコンピュータは人間の知能をもってしては認識できない混沌とした「カオス宇宙」をかいま見せてくれる。顕微鏡、望遠鏡の性能向上は著しいが、コンピュータの性能向上はさらに著しく、このままいくと2025年には人間の脳をスーパーコンピュータがシミュレーションできるようになるという。最近まで世界最速のスーパーコンピュータであった日本の「京」は、浮動小数点数演算を1秒あたり1京回(10の16乗)おこなう処理能力に由来する。
 だがそれほどの計算能力をもってしても今日の気象変動予測はままならず、明日の経済変動予測もままならない。それはまた初期条件のわずかな誤差がかくのごとく予測不能な現象を引き起こすことの証左でもある。おちおちと「くしゃみ」もできないというのが、この宇宙の現実なのである。

2015.03.16


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