私 生まれも育ちも葛飾柴又です 帝釈天で産湯をつかい 姓は車 名は寅次郎 人呼んでフーテンの寅と発します・・で始まる渥美清主演(山田洋次監督)の映画「男はつらいよ(フーテンの寅)」は1969年(昭和44年)から1995年(平成7年)までに全48作続いた日本映画史に輝く国民的映画である。日本がたどった高度経済成長からバブル経済を経て失われた10年に至る列島各地、津々浦々の社会風景を描いて来た。
それはそのまま日本の近代史であり、日本人の価値観の変遷を物語る貴重な文化遺産である。その中でも主人公、フーテンの寅がふと吐露する「あの名台詞」はことさらにこの文化遺産の何たるかを象徴するように「主旋律」を奏でている。
私にはその名台詞が時として「叙情詩」のように感じられ、あの独特の衣装と風貌で列島を渡る風のように旅した寅さんの孤影が、笑顔の裏に深い悲しみを隠した「放浪詩人」のようにも思えた。
かくして不朽の放浪詩人はこの世を去ってしまったが、その面影は今もなお、列島各地のあの風景の中に、そしてこの風景の中に、あの日のままに、生き続けているのである。
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